『山と無線 … わずか1ワットの電波』
この連休はとても好い天気ですね。皆さん、さすがにどこかへお出掛けのことと思いますが、私は、外出自粛要請がなくとも、ちょうど花粉のピークで、しかも給料日前ということで、家でこうしてインチキな記事を捏造しています。
最近の私の山行は、無線の山岳移動運用に重心が移っていて、無線に興味のない方には面白くないかな、と思っているのですが、今日は、何故、山にまで来て無線をやりたがるのか、について、少し書いてみたいと思います。
いちおう、無線のサイトもあるのですが、そちらのサイトは無線の知識が十分にある方にしか理解できないような用語を説明無しに使って書いていますので、無線に興味のない方にはおそらく「ちんぷんかんぷん」で、普通に山を楽しまれている方には理解不能でしょう。
まず手始めに、よく訊かれる質問 「アマチュア無線の電波ってどのくらい飛ぶの?」 ということから言いますと、放送局の電波の千分の一とか一万分の一といった微弱な電力しか使えない我々アマチュア無線の電波ですが、これが、ほぼ無限に遠くまで届きうるのです。もちろん、電波の形式や周波数といったもの、季節、時間帯、電離層の状態、太陽黒点数など、様々な条件に依るのですが、うまくいくと、たったの5ワットの超微弱電波でも、ヨーロッパやニュージーランドのように8000kmも離れたところと交信できてしまいます(電波が届いてしまいます=実際にこんな私でも自宅で交信経験があるのです!)。
そして、アンテナ設備などを増強すればの話なのですが、月面反射を利用した交信も可能なのです(私はやったことがありませんが、ごく一部のアマチュア無線家の方は実際に月面反射を利用した通信に成功しています)。
放送局の電波、たとえばエフエム横浜(84.7MHz:実は丹沢大山から電波が発射されています)の送信電力が5キロワット=5000ワット、JOQR文化放送(1134kHz)が100キロワット(10万ワット)なのに対して、我々アマチュア無線家が移動先で出せる電波となると、50ワットが最大なのです。つまりエフエム横浜の百分の一の電波の強さです。
そしてなんと、山で移動運用している人たちが使っているハンディ機と呼ばれる無線機となると5ワットが最大出力ながら、実際の運用は1ワットかせいぜい2ワットなのです。私が普段使っているのは1ワットですから文化放送の10万分の1、エフエム横浜の5千分の1の電力で楽しんでいるというわけです。
山でよく見かける、片手で持てる程度の小さな無線機は、ほとんどが144MHzや430MHzといったUHF帯(エフエム放送や旧アナログテレビ放送と同じぐらいの周波数)の電波のうちFMという単一電波形式しか出せないのですが、VHFとかUHF帯の電波というのは通常は「見通し距離にしか」届きません。
外国のテレビが日本で映ってしまったり、外国のFM放送が聞こえたりすることが滅多にない(実際は特殊電波伝搬で稀にあるのですが…)のはこの周波数帯の電波の性質があるためです。
(ハンディ機と呼ばれる無線機)
山で何故電波を出すのか、と言うと、まさに、その見通し距離が格段に拡大するからです。実際山から出た電波を自宅の無線機で受信しますと、体感で10倍以上強くなっている感じです。実際何度か山から電波を出してみた経験でも、本当に劇的に違ってくるのがよくわかります。
たとえば、ハンディ機を近くの街中で1ワットで使ってみると判るのですが、市内か、せいぜい隣の市町村と交信するのが好いところです。しかし山梨県の山の上などとなると、100km以上離れた東京や千葉、埼玉、栃木、茨城等の関東圏だけでなく、長野県やうまくいくと東北とも楽々交信できてしまったりして、これはやってみると本当に面白いのです。殊に山の上同士だとその電波伝播は驚くべきほどで、私は鳳凰三山でハンディ機に付属の小さアンテナだけで蔵王の山の運用局と交信したことがあります。
どこら辺まで飛ぶのですか? それが私自身もどこまで飛ぶのか全くわからないのです。どこまで飛ぶか判っていたら、こんなことをやりはしません。どこまで飛ぶのか判らないから面白いのです。
とまあ、そんなわけで、子ども時代にBCL(海外放送聴取の趣味)で電波の伝わり方に興味を持ったのが原点ではありますが、未だにそのおもしろさから抜け出せずに、無線機やアンテナを工夫してみたら、どうだろうか…、と山に行っては周囲の登山者の白い目にびくびくしながら電波を出しているという訳なのです。
いちおう、わたしとしては、最近知ったSOTAというアワードが山頂付近で4局交信したらエントリーできると言うこともあって、4局交信したら無線運用をやめるようにはしているのですが、場所と時間帯によっては呼ばれ続けてしまって、なかなかやめることが出来ないような状況になることもあり、そこら辺でトラブルにならなければいいな、と思っています。
ちなみに無線の交信ですが、どうやって成り立つのか、といいますと、呼びかけをする人と、それを聴いてその呼びかけに応じる人がいて、お互いの電波がお互いの無線機で受信できると交信が成立します。呼びかけはCQと言って、「CQ(シーキュー)、CQ、こちらはJI1BJK。どちらかお相手くださる局、いらっしゃいましたらコールください」のように呼びかけ、それに対し、「JI1BJK、こちらは7N4SVO。とれましたら交信お願いします」のように応答します。
もちろん、自分がCQを出したときに誰も無線をやっていなければ、ずっと応答がないままですが、ピークの130万局から今は3分の1の40万局まで減ってしまったとはいえ、日本はアマチュア無線局が40万局もあるのですから、週末の144MHzや430MHzは聴いている人が必ずいます。聴いていても応答しない人の方が実際には多く、CQが空振り続きだと、かわいそうに思った人が声をかけてくださったりします。
アマチュア無線をやるには国家試験を受けて合格し、合格したあとに、無線機を入手して、開局申請をして、認可されたあと初めて電波を出すことが出来ます。開局が認可されると世界にたったひとつのコールサインが付与され(私の場合はJI1BJK:文化放送のJOQRも世界にたったひとつのコールサイン)、この識別信号と呼ばれるコールサイン無しに運用すると違法になります。
はっきり言ってしまうと、よく無線と聞いて思い浮かべるイメージの筆頭=ダンプの運ちゃんたちは、ほぼ99%違法局です。
合法局のなかにも、山頂付近で大声で長時間話している無神経な人もいたりして、迷惑だなと感じることもあるかも知れませんが、たいていの山岳運用のアマチュア無線家は周囲のことを気にしながら運用しているので、少し静かにして欲しい場合などは、紙に書いたメモなどを渡してくだされば程なく運用を中止するか、静かに話してくれると思います。お互いに何とかうまくやっていきたいと思っていますので、このあたりご理解いただければと思っています。
以上、長々と書きましたが、やはり解りにくかったでしょうか? もしご質問などありましたら、コメント欄の方へ書き込んで下さると嬉しいです。こんなこと訊いたら…なんて遠慮は不要です。ご意見などもありましたら、謙虚に伺いたいと思っておりますのでそちらの方もどうぞ。
最近のコメント