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2009.03.15

『白きたおやかな峰』 北杜夫

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ああ、とうとう2月は更新無しで終わってしまったなぁ、などと思いながら、その後もずっと更新をさぼってしまって…。毎度のことながら、この間、何度もこのページを訪れていただいた皆様には、ただただ申し訳なく思っております。

今年は例年になく花粉の出足が早くて、とか、さて行こうかと考えていた矢先に「ぎっくり腰」になってしまったとか、二月の財政難とか、探せばいろいろ山行きをサボった言い訳はあるのですが、やっぱりなにより山へ行きタイよボルテージが上がらなかったというのが一番の理由でした。

更に来週と再来週の週末は両方とも土曜出勤の予定なので、恒例の18きっぷのお出かけも見合わせることになりそう…ということで、このようなデッチ上げ記事を捏造している次第です。お暇な方はどうぞお付き合いくださいませ。

で、そのあいだいったい何をしていたかというと、これが実のところたいしたことはしてなくて、ただ本だけは憑かれたように読んでおりました。読んだ本は右側の読書欄にアマゾンのアフィリエイトという形で載せてはいましたが、こちらの方は、まったく私の個人的な趣味ですし、クリックもほとんど無い状態でしたから、読書の記事を載せることはあまり考えておりませんでした。

ただ、今回ご紹介する本、北杜夫著『白きたおやかな峰』は、もし機会があったら読んでみて欲しい一冊だなぁ、と。

北杜夫さんというと、私と同じ年代の方だったら、違いのわかる男のCMに出ていたのをよく覚えておいででしょうし、「どくとるマンボウ」シリーズは航海記ぐらいなら読んだことある方も多いかも知れません。

北杜夫なんて読んだこと無いという方も、山屋さんであれば、この『白きたおやかな峰』は読んで損のない作品ではないかと思います、というより、山やったこと無い人がこの小説を読むとき、クレヴァスやピッケルやザイルはまだしも、デブリとかピトンとかいう用語を説明無しでいいのか…という感じもあるのですが、それはともかく、この物語の中で語られている登山というものは私が普段やっているような山歩きとは全く別物。まさにアルピニズムの極致なのですが、この小説で描かれているのは壮絶な死闘とかそういったものだけではなくて、キャンプ地における人間のユーモラスな表情や滑稽さ、個人個人の内面と歴史に上手にスポットを当てて、ひとりひとりが個性的に愛すべき人として実に人間らしく描かれています。

一九六五年のディラン遠征に医師として同行した時の経験から生まれたこの作品は、当時の登山隊が平気でゴミをクレヴァスに捨ててしまっていることなど、ちょっといただけないという話も含め、この時期の登山隊の様子がよくわかる貴重な資料でもありますが、やはり作品を読んで思ったのは、当たり前の話ですが、プロの文章というのはこうまで違うものなのか、ということ。

北杜夫さんの文章というのは一見平易に見えて、ユーモラスな人だなぁという印象なのですが、よく読んでみると、かなり難解な語彙も使用していて、それが無理なく適材適所であることに気づきます。そして、この人の持つ文章の奥行きの深さというのでしょうか、そういったものに感服せずにはいられませんでした。

ところで、この『白きたおやかな峰』は残念ながら現在のところ、新潮文庫では品切中で、復刊(重版)が望まれるところですが、某大手古書店で105円のコーナーに並んでいるのを一度ならず目撃しておりますので、私のように無理してオークションで落札などすることもないと思います。おそらくですが、お近くの図書館に行けば見つかるのではないでしょうか。


花粉症でお悩みの方、無理してバンザイアタックして、夜中に鼻づまりで苦しむのはもうこりごりだ、と言う方、読書で静かに週末を過ごすのもたまにはイイかも知れません。

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あぁ、それにしても悔しいぐらい、雲ひとつ無い快晴の山日和だ。
もし花粉症が完治するなら、悪魔に魂を売り渡しても好い!

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